平成から令和へと時代は移り、Webマーケティングの手法はどんどん増えてきています。その中でもノウハウの公開が少ないジャンルが「BtoBマーケティング」。企業で取り組んだものの成果に結びつかず、打開策を見つけられない担当者の課題は増える一方です。
そんな悩みを解消すべく、オールインワン型BtoBマーケティングツール「ferret One」などを運営する株式会社ベーシック代表取締役・秋山勝さんに令和時代の最新BtoBマーケティング戦略をうかがいました。マーケティング最前線に立つ秋山さんの虎の巻を公開してくれています。
インタビュアー:峯村耕太郎
取材日:2021年12月10日(株式会社ベーシック オフィス)
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平成のBtoBマーケティングとトレンドの変化
2010年代から「地上戦」は「空中戦」へ
峯村:最新のBtoBマーケティングを理解するために、まずは平成から令和にかけてのBtoBマーケティングの変化から教えてください。
秋山:法人向けのマーケティング活動は2010年を境に変わったと思います。それ以前の2000年代は、営業マンとイベントが中心になっていました。ある特定のテーマに基づいたイベントに興味のある人が参加して名刺交換をする形です。顧客との初回接触の中心的なプレーヤーは営業マン。展示会のあとにご飯を食べながら顧客の情報などをヒアリングして商談化に向けて営業する。いわゆる「地上戦」です。
この地上戦の手前にWebマーケティングが入ってくるようになりました。従来のセミナーやイベントなどの営業活動に、MAツール(顧客獲得を自動化、仕組み化するツール)やメール活動などデジタルでのアプローチを絡めていく方法、先ほどの旧来のアナログな手法が地上戦だとすると、これはいわゆる「空中戦」です。
そして2016年頃から「BtoBマーケティング」が言葉として徐々に語られるようになってきたと感じています。それがコロナ禍を契機に、一気に広がりを見せています。前述の展示会の手法自体が制限され、働き方がオンライン中心に移行していることにより、旧来の手法では顧客にアプローチしにくくなっているためです。
これまでアナログな手法が中心だったBtoBの企業は元来マーケターの人数が少ない。特にWebマーケティングに関しての知識が豊富な経験者はほとんどいない状態なので、それを未経験者や限られた人数でも簡単に実行できる環境を求めるようになりました。我々が「ferret One」をやっているのも、そういった背景があります。
コロナ禍でも売上が変わらない企業とは
峯村:2010年代は僕もマーケティング活動で、セミナーをやっていました(峯村の前職は株式会社ベーシック)。とにかく対面、対面。それが今はウェビナーなどデジタルに移行してきていますね。
秋山:ウェビナーによって時間と場所の制限はなくなったので、視聴する側は参加しやすくなりましたね。仕事の合間にも参加できるし、途中退出もできる。展示会やリアルイベントのときは半日潰して参加していましたから。
直近ではコロナの影響によって、セールスの在り方がデジタルありきで組む形になっています。ただし、デジタルに移行したことで会場の設営や受付などの準備の手間はなくなっているけど、成果はそこまで変わっていない。形・方法が変わっただけですね。
峯村:確かに普段から顧客との接点を持っている企業は、コロナ禍で会食ができなくなって対面での営業ができなくなっても、あまり売上が変わっていない気がします。
秋山:それは空中戦の部分で、お客様自身がすでに企業やサービスを吟味しているからです。地上戦の前に接点を持っていると、もっと詳しく具体的な話を聞きたいとお客様から思ってもらえます。営業マンの能力とか、サービスの良さではなく、選ぶ側(お客様)の視点に立ったときに、旧来の方法から戦略を変えていくことは大切です。
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令和のBtoBマーケティング
ノウハウを惜しみなく開示する
峯村:それでは、現在のBtoBマーケティングで意識するべきポイントはなんでしょうか?
秋山:自分たちが顧客の課題解決に寄与するソリューションやサービスであることを証明することです。そのためにはサービスを案内するよりも、自分たちが持っている専門性を惜しみなく出すことが重要ですね。
画像引用:ferret
我々で言うと、国内最大級のWebマーケティングメディアの「ferret」がそうです。マーケティングのノウハウを具体的に開示する。自分たちの卓越した専門性を惜しみなく出す。
「ノウハウを盗まれてしまうのでは?」という声もあるけど、それは完全に時代錯誤。情報を公開しない限りは、顧客と接触する機会がほとんどありません。見えない間に機会損失をしてしまう。
どんなに良いソリューションを持っていても、調べて見つからない状態であれば、そもそも営業の接点がありません。
峯村:確かにBtoBのマーケティング担当者は、まず情報を検索しますよね。先に営業マンに聞かないと思います。
秋山:そうです。発信している順番が早い企業から利益を享受しています。BtoBの領域で有名な企業はたくさんありますが、そういう会社は新しいサービスをリリースした早い段階で問い合わせが生まれる。狭い業界だからこそ、すでに認知を得ていると、情報発信してすぐに浸透する。そこがBtoCとは違う部分ですね。
「事例」でお客様の心理的安全性を担保する
峯村:オウンドメディアであれ、TwitterなどのSNSであれ、日頃から情報を開示することは大切ですね。
秋山:もうひとつ、BtoBマーケティングで大事なのは「事例」の提供。お客様の声ですね。その企業・サービスがどんな解決をしてくれたのか?課題解決の事例も惜しみなく出していくことで、心理的な安全性が担保されて、選ばれやすくなります。
・何社くらいの企業が使っているか
・どんな事業の企業が使ってくれたのか
・お客様はどんな悩みを持っていたのか
・どんな解決を提供したのか
大きくはこの4つを分かりやすく整理して開示する。事例があれば「まさにウチだ!」と相談したくなります。
当たり前のことに聞こえますが、実際はノウハウの公開もせず、サービスの紹介だけしている企業が多い。そうなると、詳しいことは営業マンに聞かないと分からない。お客様からすれば面倒くさいですよね。
逆に惜しみなく情報を提供していると、その情報を社内でも共有してもらえます。最初は1人がホワイトペーパー(サービス資料)をダウンロードしても、それを社内で共有してもらえたことで、より詳細を説明するセミナーに4人が参加していた例もありました。そういうマーケティングをしている会社のセミナーは徐々に人数も増えてきますよ。
BtoBマーケティングの担当者が失敗してしまう原因
峯村:逆に、マーケティングで失敗しやすい企業の特徴はありますか?
秋山:サービスを作って安心してしまう企業は漏れなく失敗しています。Webサイトの例が分かりやすいと思いますが、最初にどんなにミーティングを重ねたところで、いきなり筋の良いサイトはできない。逆に、ちょっとずつでもコツコツ手を入れて改善しているところは、パフォーマンスが全然違う。作って放置しているところは全然うまくいっていない。これは明確に分かれますね。
もう一つは、マーケターがマーケティングと他の業務を兼任しているところは失敗しやすい。
マーケティング活動ってコツコツやってはじめて成果が出る世界です。結果が後からついてくる「遅効型」なのに、我慢しきれない企業が多い。最初のうちは本当に手応えがない仕事なので、兼務でやると他の仕事に流されてしまうんです。そして、更新が止まって結果が出ないという悪循環が生まれます。
マーケティングは専任としてしっかりと専属のミッションを設定することで、担当者が邁進できる環境になりパフォーマンスが上がりやすい。ダイエットや筋トレに失敗する人も一緒です。「なんでトレーニングやめたんですか?」って理由を聞くと、ほとんどが「他のことで忙しくて」と答えますよね。
峯村:これまで多くの事業を手掛けてきた秋山さんが、今だから思う自身の失敗経験について教えていただけますでしょうか?
秋山:ferret Oneについては、セールス・ドリブンで行きすぎたことですね。売って終わりじゃなく、LTVを高めないといけないのに、営業を強くしすぎて、売る体制は早くできたけど、後工程を意識していなかった。そのときは新規顧客を獲得しても、その半分くらいチャーン(解約)されていました。
売り切り型サービスならいいかもしれないけど、BtoBの場合は契約を長くしてもらうことが大事なので、ビジネスとして成立しなかったですね。
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BtoBマーケティング手法について
最低でも1年間は歯を食いしばる
峯村:先ほど「BtoBマーケティングは遅効型」だとおっしゃいましたが、成果を焦って待てない企業も多いと思います。どうすればいいでしょうか?
秋山:BtoBマーケティングって、結局は上層部のコミット度合いで決まるんです。マーケティングって未知の活動なので、そこに本気で投資するのか、リソースを割くのか。そこだけです。
以前、知り合いの社長から「ferretみたいなサービスを作るにはどうすればいい?」と相談されたとき、「投資するってことを決めるだけ」と答えました。
マーケティングって最終的にはROI(投資対効果)が高い状態を作ることだけど、いきなりROIが高い状況は難しい。失敗や試行錯誤を繰り返すことで筋道ができていく。
もし、3ヶ月で成果が出なくてやめるつもりなら、最初からやらない方がいい。それこそ費用対効果が悪すぎます。最低でも1年間は歯を食いしばってやる覚悟がないとダメです。ある程度、施策の数も打たないと、正しいかどうかの検証も進まないですから。
BtoBマーケティングは遅効型なので、最終的なROIを合わすことを意識する。最初は成果が出なくても、ヤキモキせずに見守ることが大事だと思っています。
峯村:上層部はどこまでマーケティングに関与すればいいでしょうか?
秋山:いちばん大事なのはゴール設定です。投資をするときに期待したいものは何なのか?KGI、KPIを設定したときに担当者が、そのKPIを追いかけられる状態になっているかが重要です。
基本的なことだけど、目標をしっかり設定することは大切。「いつかこうなったらいいな」くらいの目標であれば「行動」が生まれません。「何となくやっといて」だと担当者自身も、どこに向かっていいか分からなくなる。
「今月10件問い合わせが増えました」と、ただ問い合わせが増えていることに喜んでいるだけでは、それが適切なのか判断できない。経営側が「10件じゃ足りない」と言っても、担当者からすれば「増えてはいるじゃないですか」と不満が出る。これはまさに、どの程度増やすことを目指すのかのゴール設定が事前にできていないからです。
ダイエットも同じですよね。まずは目標の体重を決めた上で、それに向けて毎日毎日、成果を確認することでコントロールができる。正しい目標を設定できれば、行動が変わってきます。マーケティングも正しいKPIを設定できていれば、結果が変わってくるんです。
峯村:先ほど企業にはマーケターが少ないとおっしゃいましたが、どのように教育するか教えてください。
秋山:ベーシックの場合は、小手先の手法ではなく、とにかく上段の概念と戦略をしっかり教えます。ジムのパーソナルトレーナーのようなものです。セルフでやれる人はごく少数。特にBtoBのマーケティング経験者は少なく元々他職種のメンバーが担うことも多いので、きちんとトレーナーがついて、器具(ツール)の使い方以前に、ダイエットしたり筋肉をつける上での、正しいトレーニング方法自体を教えないといけない。
「マーケターがいないから、ウチはマーケティングできません」と教育の仕組みを作ろうとしない企業は、たとえマーケターを採用できたとしても根本的には解決しません。
お客様の立場から戦略を考える
峯村:これからBtoBマーケティングを始める担当者、いま壁にぶつかっている担当者にアドバイスをお願いします。
秋山:まずは、買い手の意識変化が起きていることを把握することです。そこから逆算してどんな戦略を取るか。
言うまでもなく、今は対面での営業が減っています。その中でどれだけ優秀な営業マンが足しげく通って「案件とってきます」と言っても、買い手としては来てほしくないと思っている。
お客様からすれば「情報収集して自分たちで比較検討して、必要であればこちらから連絡しますよ」という状況なので、マーケティングとしては比較検討してもらうために、しっかり情報提供することが戦略になります。
その後のインサイドセールス、フィールドセールスは会社の戦略によりますが、やるべきことはシンプルです。「誰の何の問題を解決するか」だけです。そこを整理すると、やることは明確になっていきます。
・どんな人がどんな悩みを持っているかを分析する
・数字やエビデンスなどを社内に示す
・悩んでいる人たちに情報を届ける
・自分たちが解決した事例を公開する
すごく当たり前の話に聞こえますが、デジタルセールスにおけるスタートラインはそこ。
とにかく、しっかり自分たちが持っている専門性を公開する。情報発信が大事なのは、大手企業でも同じです。誰でも知っている有名企業でも事業がたくさんあり、サービス内容自体は世の中に認知されていないケースが多々あります。
例えば、我々のクライアントである有名な飲料メーカーが法人向けにスムージーを売っていますが、その事業に関しては世の中のほとんどの人は知らない。企業名=サービスの認知度とは限らないんです。だから、しっかり情報発信・マーケティング活動をしていくことが大事です。
「ユーザーが求めるもの」を意識する
峯村:情報発信をするからこそ、「自分たちのサービスを磨かないと」って相乗効果も生まれます。では、競合企業はどこまで意識するべきでしょうか?
秋山:サービス作りの点では意識しなくていいです。ただ、お客様から相談されるとき、必ずサービスの比較の話は出てきます。競合のサービスを知らないと適切な提案ができません。お客様の課題を解決するために競合を意識する感覚ですね。
峯村:では、今後もBtoBマーケティングにおいて、新しいツールやプラットフォームがどんどん登場すると思いますが、競合調査、情報発信という文脈からそれらは積極的に活用するべきでしょうか?
秋山:ユーザーがそのチャネルに求める性質によると思います。我々は、有効と思えるならトライするスタンスですね。
YouTubeにトライしているBtoBの企業が多いですが、その失敗も多く見てきています。なぜ失敗するかというと、ユーザーが求めているものと違うからです。ユーザーはYouTubeを教養を深めるためじゃなく、エンタメとして利用する場合が多い。
我々は12月の資金調達の際にVoicyで情報を発信しましたが、それはプラットフォームの性質から発信の場として悪くないと考えたからです。
Twitterも今ではビジネスの繋がりに活用する人が多いので有効だと考えています。実際にTwitter経由でサービスの導入に関する問い合わせも来ますし、サービスを認知してくれたきっかけがTwitterという声は多く、そこからWebサイトに行って調べてくれるユーザーが安定的に存在します。
ですので、新しいツールやプラットフォームを活用するかは、ユーザーがそのプラットフォームに求める性質によります。何よりも「ユーザーが求めるもの」を意識することです。
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令和時代の最新BtoB戦略まとめ
令和の最新BtoBマーケティング戦略について考えてみようと立ち上げた本企画。秋山さんにBtoBマーケティングの考え方や手法を伺いました。
BtoBマーケティングで失敗する要因
・成果を焦りすぎて数ヶ月でやめてしまう
・目標設定を怠り、担当者に任せっきりにする
・マーケターが他の業務と兼任している
BtoBマーケティングのポイント
・投資すると決めたら1年間は待つ
・上層部が正しい目標設定をする
・持っている情報、事例を惜しみなく開示する
・お客様のニーズを戦略の軸にする
インタビューを通して、秋山さんのBtoBマーケティングの軸が「お客様をよく見る」ことにあるとわかりました。
マーケティングを学ぶのではなく、お客様をしっかり見てコツコツやる。最も遠回りに思える方法が、実はマーケティング成功への最短ルートではないでしょうか。本記事が、これからBtoBマーケティングに挑む担当者の手引きとなることを願っています。
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